医療機器参入を迷わせる『薬機法』を、どう捉えるべきか│医療機器メーカー経験者の行政書士が解説

QMS省令. ISO 13485, 薬機法, 医療機器 コラム

医療機器業界への参入を検討したものの、
「薬機法が難しすぎる」
「どこから手を付けていいか分からない」
と感じ、結果として参入を見送った、あるいは途中で撤退した企業は少なくありません。

その判断は、当時の状況を考えれば、決して間違いだったとは言い切れないでしょう。
限られた人材・資金・時間の中で、先が見えない分野に踏み出すことは、経営判断として大きなリスクを伴います。

しかし一方で、少し立ち止まって考えてみたい問いがあります。
「本当に撤退すべき理由は、薬機法そのものだったのでしょうか」


薬機法は「難しい法律」だから敬遠されがち

薬機法(医薬品医療機器等法)は、その名前からして堅く、条文も専門用語が多いため、「自社には無理な世界」という印象を持たれがちです。
特に製造業の経営者や技術者の方にとっては、

  • 承認、認証、届出の違いが分からない
  • クラス分類の考え方が難しい
  • QMS、GVP、GMPといった略語が次々に出てくる

といった点が、心理的なハードルになりやすいのが実情です。

その結果、
「薬機法を理解できない=医療機器事業はできない」
という結論に至ってしまうケースも多く見受けられます。


最初から薬機法を“完全に理解している企業”はほとんどない

ここで一つ、知っておいていただきたい事実があります。
現在、医療機器メーカーとして事業を行っている企業の多くも、最初から薬機法を理解していたわけではありません。

実際には、

  • 医療機器と一般工業製品の違いを理解するところから始め
  • 自社製品がどの分類に当たるのかを一つずつ整理し
  • 分からない部分は専門家や行政に確認しながら進めてきた

というケースがほとんどです。

つまり、「薬機法が分からない」という状態そのものは、参入を検討する企業にとってごく自然なスタート地点なのです。


撤退の理由は「薬機法」ではなかった可能性

参入を諦めた企業のお話を伺うと、撤退理由として「薬機法が難しかった」と語られることが多くあります。
しかし、もう一段深く掘り下げてみると、実際には次のような背景が見えてくることがあります。

  • 自社製品が医療機器に該当するかどうか整理できていなかった
  • 承認・認証・届出の違いを知る前に「大変そう」と感じてしまった
  • 社内に相談できる専門家がおらず、不安が膨らんでいった
  • 参入までの全体像が見えず、投資判断ができなかった

これらは、必ずしも薬機法そのものが原因というより、「制度をどう捉え、どう進めるかの整理ができていなかった」ことが要因である場合が少なくありません。


薬機法は“参入を止めるための法律”ではない

薬機法は、ときに「参入障壁」として語られます。
確かに、一定の品質・安全性を担保するためのルールが多く定められており、自由に何でも作って売れる世界ではありません。

しかし本来、薬機法は
「危険な製品を市場から排除し、信頼できる製品だけを流通させるための枠組み」
です。

見方を変えれば、

  • ルールを正しく理解し
  • 必要な範囲を押さえ
  • 段階的に対応していく

ことで、無秩序な価格競争に巻き込まれにくい市場を形成しているとも言えます。

実際に、薬機法対応をきちんと行っていること自体が、取引先や医療現場からの信頼につながっている企業も少なくありません。


「最初に全部理解しよう」としなくてもよい

医療機器参入を検討する際、多くの企業が陥りやすいのが、
「最初から薬機法を完璧に理解しなければならない」
という思い込みです。

しかし実務上は、

  • まず自社製品が医療機器に該当するか
  • 該当するとすれば、おおよそどの分類か
  • どこまでが自社で対応し、どこから外部の力を借りるか

といった点を整理するだけでも、次に進む道筋は見えてきます。

すべてを一社で抱え込む必要はありませんし、最初からフルスケールの体制を整える必要もありません。


撤退は「失敗」ではなく「途中経過」かもしれない

過去に医療機器参入を検討し、結果として見送った経験がある企業にとって、
「もう一度考えるのは今さらではないか」
と感じることもあるかもしれません。

しかし、そのときに行った検討や悩みは、決して無駄ではありません。
当時は見えなかった選択肢や、外部支援の活用、制度の捉え方が、今なら整理できる可能性もあります。

撤退は、必ずしも「間違った判断」ではなく、情報と支援が不足していた段階での一時的な判断だったとも考えられます。

最後に ― 一度立ち止まって、整理するところから始めてみませんか

医療機器業界への参入や撤退は、「やる・やらない」を即断できるほど単純なテーマではありません。
とくに薬機法が関わる場合、情報の整理が十分でないまま判断せざるを得なかった企業も多いのではないでしょうか。

もし、

  • 自社の製品や技術が医療機器に該当するのか分からない
  • 過去に撤退した判断が、今も気になっている
  • 薬機法対応の全体像を一度、落ち着いて整理してみたい

と感じられているのであれば、まずは「判断材料を整える」ことから始めるという選択肢もあります。

医療機器参入は、必ずしも今すぐ結論を出す必要はありません。
一度、第三者の視点で整理することで、
「本当に難しい部分」と「思っていたほど難しくなかった部分」が分かれて見えてくることも少なくありません。

薬機法に関するご相談は、参入を前提としたものでなくても構いません。
「可能性があるのかどうかを知りたい」
「過去の判断を客観的に振り返りたい」
そのような段階からのご相談も、十分に意味があります。

無理に進めるための相談ではなく、納得した判断をするための整理として、必要なタイミングで専門家を活用することも、経営判断の一つです。
ご自身の状況に照らし合わせながら、次の一歩を考えるきっかけとしていただければ幸いです。

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