はじめに
恥ずかしながら、私はこれまで「バイオデザイン(Biodesign)」という言葉は耳にしたことがあったものの、その考え方を深く理解する機会はありませんでした。
薬機法やQMS、省令対応を専門としていると、どうしても「製品ができた後」の規制や品質保証に目が向きがちです。
しかし、バイオデザインについて改めて学んでみると、「なぜ医療機器開発ではこの考え方が重視されているのか」が少しずつ理解できるようになりました。
特に印象に残ったのは、「優れた技術から製品を作る」のではなく、「医療現場の困りごとから製品を考える」という発想です。
一見すると当たり前のように思えるかもしれません。
しかし、この”当たり前”を徹底することが、医療機器開発の成功率を大きく左右しているようです。
今回は、自分自身の学びも兼ねて、「バイオデザインとは何か」「なぜ世界中で注目されているのか」、そして薬機法との関係について整理してみたいと思います。
バイオデザインとは?
バイオデザインとは、医療現場の**「ニーズ(Needs)」**を出発点として、新しい医療機器や医療技術を生み出す開発手法です。
この考え方は、米国のStanford Biodesignで体系化され、現在では世界各国で活用されています。
従来のものづくりでは、「この技術があるから、何か製品を作ろう」という”シーズ(Seeds)起点”の開発が一般的でした。
しかし医療機器では、それだけでは成功しないケースが少なくありません。
どれだけ優れた技術でも、医療現場で本当に必要とされなければ、製品として普及しないからです。
バイオデザインの3つのステップ
バイオデザインでは、大きく3つの段階で開発を進めます。
Step1 Observe(観察する)
まず行うのは、医療現場を徹底的に観察することです。
医師や看護師へのインタビューだけではありません。
実際の手術や診療を見学し、「何に困っているのか」「どこに時間がかかっているのか」「どの作業が危険なのか」を徹底的に洗い出します。
重要なのは、「解決策を考える前に、課題を見つける」という姿勢です。
Step2 Invent(考える)
見つけたニーズに対して、どのような解決策があるかを検討します。
ここでは、「自社の技術で何ができるか」ではなく、「この課題を最も良く解決できる方法は何か」を考えます。
そのため、既存技術を組み合わせたり、全く新しい発想が生まれたりします。
Step3 Implement(社会実装)
最後は、実際に製品として社会へ届ける段階です。
ここで初めて、
- 薬機法
- 保険制度
- 知的財産
- 製造
- 販売
といった課題が登場します。
つまり、バイオデザインは単なるアイデア創出ではなく、「患者さんへ届くところまで」を含めた開発プロセスなのです。
なぜ今、バイオデザインなのか
日本には世界トップクラスの加工技術があります。
切削、板金、樹脂成形、精密加工、電子制御……これらは世界でも高い評価を受けています。
しかし、「技術はあるのに医療機器にならない」という話も珍しくありません。
その理由の一つが、ニーズよりも技術が先に来てしまうことが原因かもしれません。
中小企業との相性は非常に良い
私はむしろ、バイオデザインは中小企業に向いている考え方ではないかと感じています。
中小企業は、大企業ほど開発予算はありません。
しかし、意思決定が早く、技術力が高く、柔軟性があるため、現場ニーズを素早く製品へ反映しやすい環境があります。
バイオデザインと薬機法の関係
一見すると、バイオデザインと薬機法は別の話に思えます。
しかし、実際には非常に密接な関係があります。
例えば、ニーズを分析する段階で、「この製品は医療機器に該当するのか」を考えておけば、後になって「実は医療機器だった」という手戻りを防ぐことができます。
また、想定する使用目的が決まれば、
- 一般的名称
- クラス分類
- 承認・認証・届出
- 必要なQMS体制
- 臨床評価の考え方
も、早い段階から見通しを立てることができます。
つまり、薬機法は開発が終わってから考えるものではなく、開発の入口から意識すべきものなのです。
私自身が感じたこと
今回、改めてバイオデザインについて勉強してみて感じたのは、「薬機法は開発を止めるためのものではなく、患者さんへ安全に届けるための仕組みである」ということです。
バイオデザインは、患者さんや医療従事者のニーズから始まります。
薬機法は、そのニーズを満たす製品を、安全かつ継続的に患者さんへ届けるためのルールです。
どちらも目指しているのは、「より良い医療を実現すること」なのだと感じました。
おわりに
医療機器開発というと、高度な技術や最先端の研究が注目されがちです。
しかし、バイオデザインが教えてくれるのは、「最初に考えるべきは技術ではなく、医療現場の困りごとである」という、とてもシンプルな考え方です。
これから医療機器分野へ参入を検討されている企業の皆様も、まずは「自社の技術で何が作れるか」ではなく、「医療現場では何に困っているのか」という視点からスタートしてみてはいかがでしょうか。
その上で、薬機法やQMS、省令対応を開発初期から意識することで、事業化までの手戻りを減らし、より実現性の高い製品開発につながるはずです。
私自身も、今後さらにバイオデザインについて学びを深めながら、薬機法という立場から、医療機器開発を支えるお手伝いができればと考えています。


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